この季節になると、台所の窓から、わが家の谷に白い花が見える。こっちに引っ越して初めて見る花だった。その名を「ヤブデマリ」という。
コデマリやオオデマリは園芸種をよく知っているが、テマリというより山紫陽花に近い。ちいさなクリーム色のつぶつぶの花の周りに、白いガクが円形にならぶ。ガクのほうが花びらに思える。
紫陽花と違うのは、このガクの形だ。一つ一つが、まあるい手の形をしている。手がまるく並んでいるのでテマリなのかもしれない。
むしょうにこの花を描きたくなった。しかし、花は10m下の谷底。家内は仕事でしばらく来ない。必死の思いで、二本杖をつきながら、次兄が作ってくれた谷底に降りる道を下った。花を切ったものの、両手は杖でふさがっている。仕方ないので、花を口に加えて部屋に戻った。昔、滋賀県で飼っていた猫が、長いものを咥えて帰ってきたのを思い出し、笑ってしまった。
このヤブデマリは、切花にすると寿命が短い。スケッチから4日かかったが、なんとか持ちこたえてくれ、先ほど描き終わった途端に花が落ちた。
なんとか身近でゆっくりとこの花を愛でたいと思い、昨年、家内にひこばえを何本か抜いてきてもらった。この冬の寒さに耐え、若葉を出してくれた。ただ、私が花がさくのを見ることができるかどうか?