家内が「きれいなヤママユの繭みつけたぁ」と興奮した様子で玄関から入ってきた。「おいらにもいけるところかい?」と聞くと、「だいじょうび」という。急いで膝サポーターをつけ、焦って靴をはき二本杖で必死に家内について行く。ON工房の玄関イスのおかげでこのような緊急事態でもすぐに靴を履けるようになった。よく考えたら繭は飛んで行かないので、そんなに急ぐことはなかったのだが。
それは谷の降り口に生えているミズナラの根本の細い枝についていた。みごとな黄緑色、自然の造形美は素晴らしい。この冬枯れの中にこんな見事な緑色に輝いていて、身を守れるのかな?と心配になったほど輝いていた。
一昨年、やはりこのミズナラの根本でヤママユの繭を拾ったので、これもヤママユのものと思った。以前は抜け殻で上部に穴が開き繭もずいぶんと汚れていた。
しかしよく見ると少し繭の形が違う。繭のてっぺんがジッパーつきのように一直線になっている。ヤママユの繭はお蚕さんのように丸いし、葉っぱの上で繭をかける。こいつは細い枝にぶら下がっている。
ヤママユの繭の写真をgoogleで調べたら、なかには「たぶんヤママユの繭と思う」と、私のようにいいかげんな人もいたが、ヤママユガ科の「ウスタビガ」という蛾の繭であることがわかった。成虫の写真をみても、素人の私にはちょっとやそっとでは区別がつかない。ヤママユもクスサンもウスタビガもおなじに見える。羽根に入った横線模様が少し違うようだが、どうも我が家の標本箱にはないということはわかった。
ウスタビのタビは手火=提灯のことで、この繭の形から名前がついたということだ。ウスはなんだろう? とにかく、子供の形から親の名前が決まった。そういえばシャクガも子供の尺取り虫から付けられているので虫の世界ではよくある話かも。
ご近所蝶キチIGさんに連絡して「どうでぇ」と自分の手柄話のように自慢する。ひと目見るなり「こんなきれいな繭はいままで見たことない」という。IGさんは昔、福島県までウスタビガの採集に行ってきたとか。ヤママユより少し小型の黄色っぽい蛾だそうだ。そんな遠いとこまで採集に行くとは、なるほど結構価値のある蛾なんだと、内心「シメシメ」と舌なめずりをしたのであった。
これから暑い夏をこの中で過ごして、秋口には立派な蛾が飛び出すことだろう。「シメシメ」というのは冗談で、そっと見守ることにする。