スマートフォンはすごい。電話と言うより、携帯型のコンピュータだ。家のパソコンでやっていることが、外出先でもできる。そして使いたい時すぐ動く。すぐ動くように思えるのは、いろんな仕事(アプリケーション)が、いつも同時に動いているからだ。専門用語でマルチタスクという。
家内は、何かしている時も、同時に頭の中で何かを考えていて、その物語の途中から突然話しだす。まるでスマホと一緒だ。私にはストーリーが突飛で理解できない。しかし、韓ドラを視ているときに話しかけると、「テレビが聞こえない」といって怒り出す。そして、私が話しかけたところまでビデオを戻す。韓ドラの時はマルチタスクを止めて、全神経集中で見ているらしい。
ピアノ演奏もマルチタスクだ。楽譜を読む、ペダルを踏む、右手左手別々に弾く、感情を指に伝える、弾いている音を耳で聞く・・・同時に処理していることが山ほどある。
ピアノのK先生に「左手の音が聞こえていないわね」とよく指摘された。自分では左手の音も聞こえているつもりだったので、最初、何を言われているのか理解できなかった。人間の脳は、やることが多すぎて都合が悪くなると、いずれかの動作を切り捨てるらしい。最近やっと左手の音が聞こえるようになって、先生の指摘の意味がわかった。漢字を書き分けると「聞く」と「聴く」の違いだろうか。難しい運指(どの指で鍵盤を押すかということ)になると、それに気が行って、音を聴くどころではなくなるのだ。軽いパニック状態になってフィードバックがかからず、タイミングや強弱が左右ばらばらになる。
今練習している「モーツアルトのトルコ行進曲」は、アルペジオを和音で弾いたり、右手のメロディーを単音で弾いたりと、脳が仕事をサボらないように、最初は軽い負荷からだんだんと難しくする練習方法を取っている。この方法は、4年前から指導されていたのだが、やっと理解できるようになったのだ。そして、ゆっくりと弾く。
ずっと前、京都のM先生に「下手な人程、速く弾きたがるのよねぇ」と皮肉を言われたことがある。